ワタシに問う。その生と死。

第壱番

 

 

其の日を覚悟せよ

 

さすれば時は宝となる

                    

其の地を見定めよ

                    

さすれば道は花で満つ

                 

我が身命   我がものに非ず

 

 

 

 

 

第弐番

 

 

ワタクシという容れ物。空っぽの小さき世界。

 

喜びは、七色の光を放ち、 

 

降り注ぐばかりで捉えることはできない。     

 

怒りは、煮えたぎり、

 

時とともに黒ずみ底へと沈み長く留まる。

 

哀しみは、粉雪のごとく、

 

静かに降り積もり組成の内に入り込む。

 

楽しみは、落ち着きなく、

 

すぐに溢れ出て溜め置くことはできない。

 

穢れた羽虫が、悪戯に、小穴を開けて去ってゆく。

 

するとそこからすべてが漏れた。

 

とめどなく流れ出る、失うばかりの心地は、

 

絶望の淀みに似て、光と色を奪い去らんとする。

 

しかし何も留まらず溜まらず、故に淀みも生じない。

 

喜怒哀楽は風のごとく通り過ぎてゆく。

 

ワタクシという容れ物。空っぽの小さき世界。

 

 

 

 

 

第参番

 

 

何者かと問われ、私ですと答えたのです。  

 

私とはと問われ、罪人ですと答えたのです。 

 

その罪はと問われ、人の罪ですと答えたのです。

 

人の罪とはと問われ、産まれた罪ですと答えたのです。

 

償いはと問われ、生きることですと答えたのです。

 

生きるとはと問われ、死ぬことですと答えたのです。

 

 

 

 

 

第四番

 

 

ちくしょうの声に耳を傾けよ

 

ちくしょうの涙に手を差し伸べ

 

我らは愚かなり

 

見えるが故に飾り立て

 

聞こえるが故に惑わされ

 

話せるが故に虚勢を張り

 

知るが故に絶望す

 

ちくしょうの声に耳を傾けよ

 

ちくしょうの涙に手を差し伸べよ

 

 

 

 

 

第五番

 

 

男はせっせと精出して、わが子のために働きました。

 

ある日、その子はあっけなく、車に引かれて死にました。

 

男は涙が枯れた後、妻の手を取り働きました。

 

ある日、妻は病に倒れ、そのまま息を引き取りました。

 

男は心が折れたまま、老母を支えて働きました。

 

ある日、老母は杖だけ残し、橋から川に身を投げました。

 

男はそれでも気づかずに、天を仰いで叫びます。

 

私がなにをしたのでしょうか。

 

すると一羽のヒヨドリが、男の肩に舞い降りて、

 

小さくピヨと鳴いたのです。

 

男はわずかな米粒を、肩の小鳥に差し出しました。

 

すると男の頭に登り、続けてピヨピヨ鳴いたのです。

 

見上げれば彼方まで、いつもと少しも変わらない

 

青が続いておりました。