序文/展示室2                       『過去鏡』 私を捉え目覚めさせる聖地の光と陰と連なる言の葉

聖地。その静謐と悟り。

祈りの地。

古人は聖なる地と畏れ、

今人はパワースポットと集う。

そこに身を置けば、荒ぶる魂は鎮まり、

沈んだ思いは救われ、

穢れた身体は清められ、

迷いは晴れ、無私の願いは叶うという。

 

祈りの地。

ある者は魂を捧げる切実さで、

ある者はその場限りの軽薄さで、

百千萬の願いを持ち込む、自省の砦、煩悩の坩堝。

ある地は老若男女が鈴生り、

ある地は容易な進入を拒み、

ある地はあまたの血に染まる。

 

祈りの地。

年齢、性別、理性、自我、人格。

現世のあらゆる頼りから引き離され、

隠れ場所を無くし、ありのままの姿で、

静謐な空気のなかに放置される。

連綿と続く愛憎の系譜を思い、

我が身に宿る清濁を知る。

 

祈りの地。

日と月と星の光で、

裸の我が身を映し出す。

身を置くたびに、

「私」はうつろう「ワタシ」に気づく。

すべての答えは、

過ぎし日の我が身の内にあり。

 

祈りの地。

即ち我が身の過去鏡なり。